NO.483
くっさ~い
くさい、 うざい、 きもい、 暑苦しぃ~
この映画には、至る所から “真理がにじみ出ている不思議さ” がある
笑ってしまうが「隠れた名作」である
この物語の主人公の女の子「西表耶麻子(いりおもて やまこ)」は
大、大、大好きな男の子「南愛治(みなみ あいじ)君との思い出」が詰まった「宝箱(記憶)」を携えて「ハリボテで出来た地球」に降りてくる
やま子は「その思い出を体験するために(感情を味わうため)」に
その「宝箱」を持って「この地球」にやって来たのである
そして、また「新たな愛治くんとの思い出」を、大切な「宝箱」に保管していくのである
やま子が降りたった場所は、九州にある「火蜥蜴島(ひ とかげ しま)」である
そう、やま子は「蜥蜴(蛇)」が支配する「この世界」に降りてきたのである
このことだけを見ても、この作者は “知っている人” である
と、同時にここで「自我」が発生することになる
さて、この「いりおもて やま子」とは、そのまま「自我」のことである
この「自我(いりおもて やま子)」と、対になっている「反物質(反作用)」が
「先輩(不破風和 ふわ ふうわ)」である
つまり、「やま子」が「出ること」、または「出ないこと」によって
これは、どちらも「出ることになる」のだが
そこに「先輩」が誕生してくるのである
よって、「先輩」の役割は
「やま子の動き」を、“本来のやま子(やま子の生)” に戻すべく
「抵抗」と成ったり「行動をさせよう」と作用してくるのである
ここで、この映画のタイトルの意図が読み取れてくる
普通なら「『私に』優しくない先輩」となるはずだ
だが、先輩は、やま子が生み出したものだから
「『私の』優しくない先輩」となるのである
そんなやま子は、生まれつき心臓が悪いため
たびたび倒れてしまい意識を失ってしまうのである
そんなやま子は、南愛治くんとキスがしたいのである
さて、先輩は、南愛治くんにラブレターまで書いておきながら
それを渡せずに「何も出来ないやま子」に見かねて
「島のお祭り」のときに「たこ焼きの屋台」をやることを企画する
名付けて「たこ焼き大作戦」である
やま子は、そこまでしても自分に一生懸命になる先輩に、こう問いかける
“ やま子 : あのぅ ずっと気になってるんですけど・・・
先輩 : なんだ
やま子 : 目的はなんですか?
先輩 : 目的?
やま子 : なんで私に協力してくれるんですか?
私、お金ならありません
代わりに「でんぐり返し」しろと言われても無理です ”
やま子は心臓が悪いため、絶対に選ばなければならない高校の部活動に、消去法で地味なこと極まりない「マット運動」を選んだのである
だが、「マット運動」を選んだのは、やま子と先輩の2人だけだったのである
“ やま子 : いくら考えても分からないんです
なんで先輩が私のために・・・
先輩 : あえて、その質問に答えるとしたら「お前の笑顔が見たいからだ」
やま子 : はぁ? ”
そして、先輩から「たこ焼きの屋台」をやるために、もう一人メンバーを集めろと言われるのである
そして、メンバーが集まった
「先輩」と「愛治くん」と「やま子」と「火蜥蜴島一暗い、やま子の友達の喜久子」の4人である
そのために、たこ焼きを焼く練習を、放課後と日曜日に、やま子の家でやることになるのである
やま子は、ほぼ毎日、愛治くんと会えるからウキウキである
だが、喜久子の様子がどうもおかしい
喜久子は「たこ焼きの企画」より以前に
愛治くんから告白されていたのである
そのために、喜久子はどうすればよいのか分からなくなっていたのである
そんなとき、愛治くんが一人だけ来ない日があった
やま子は神社にお参りにいく
そのときに、その神社の境内で愛治くんが不良グループと一緒にタバコを吸っているのを見てしまうのである
愛治くんも、やま子に見られたことに気付いてしまう
そんなある日、やま子は喜久子の家に行く
そこで初めて「喜久子が愛治くんに告白されていたこと」を聞かされるのである
ガーン!
さらに喜久子は、やま子に相談してくるのである
“ 喜久子 : ねぇ、やま子、私、どうすればいいかな?
ほとんど話したことないのに、いきなり「好きだ、付き合って欲しい」って
私の気持ちが知りたいって
今も返事をずっと待っているって ”
ガーン!
ここで、「思考の中」で、意地悪なやま子が爆発する
“ やま子 : 私はね、何とも思っていないのなら、付き合ってもすぐにダメになると思う
だから、無理して付き合うことないんじゃないかな
喜久子は何とも思ってないんでしょ
だったら愛治先輩のためにも「キッパリ断った方がいいと思う」 ”
そして、やま子は「思考の中」で、喜久子を崖の上から突き落とすのである
そして、ハッと我にかえって、やま子が喜久子に実際に言葉に出したアドバイスは
“ やま子 : 「私ね、ちょっとみんなのことも考えちゃったの、
喜久子と愛治先輩が、もし付き合っちゃったら、
なんか4人が気まずくならないかな?って」 ”
そう、やま子は「やんわりと断るよう」にし向けたのである
このことで、一番心を痛めたのは、やま子自身である
やま子は言う、“ 汚れた 私は、汚れてしまった ”
このあと、喜久子は、愛治くんとの交際を断って、スッキリとした顔になって通学している
そして、お祭りの日がやってきた
愛治くんは「たこ焼きの屋台」にはやって来なかった
残りのやま子たち3人は「臭くなりながら」も楽しそうにたこ焼きを焼いて売っている
そして、日も暮れ出し、メインの「火祭りの行事」が始まっていく
(この笛の鳴るところから始まる「火祭りのシーン」が実に素晴らしく
画面から “圧” が感じ取れるのである
また、神社がとても力強い風貌で魅力のある神社なのである
伊豆にある「大仁神社(おおひとじんじゃ)」だそうである)
そして、ついに先輩の演出によって「やま子が愛治くんと二人っきりになる場面」が訪れる
そこは、祭り会場を登ったところにある神社の境内である
だがそこで、やま子は愛治くんに言うつもりはなかったはずの
「屋台に来なかったこと」を咎めてしまい、場をしらけさせてしまう
そんな空気の中にもかかわらず、やま子は愛治くんに「付き合って」と告白するのである
だが、それに対する愛治くんの応えは
なんとも誠意の無い「『タバコのことは学校に言わないで』という交換条件付きの軽々しいOK」だったのである
このことに幻滅したやま子は、また祭り会場へと帰っていく
その神社からの階段を降りていく途中で、やま子はバッタリと喜久子に会ってしまう
さっきの一部始終を、喜久子に聞かれていたかもしれない不安に
やま子はバツが悪くなって無視して去っていく
そんな、やま子は自暴自棄になってしまい
「どうだった?」と、迎えに来た先輩とも言い争いになる
やま子は先輩に暴言を吐く
“ やま子 : これが全部本当なら、私、本当なんて要らない
私は、本当に愛治くんが好きで
でも、それが本当かどうか分からなくなって
私、本当は、みんなが頑張っているのに、一人だけサボる人間が嫌いです
そういう人が、本当に本当に大嫌いです
でも、そういう人を、ずっと好きだと思って
友達、傷つけて
そういうふうに自分を守る自分が嫌いです
大嫌いなんだよー!
先輩 : お前は難しいやつだな ハハハ
けど、それがお前だよ
それでいいんだよ
やま子 : よくない、私は最低だよ
先輩 : 知ってるよ (先輩はやま子の反物質だからである)
やま子 : 本当は嘘つきで
口が悪くて
いつもひどいことばっか考えてて
みんな死んじゃえばいいって
そんなことばっか
先輩 : 知ってるって
やま子 : 知ってるわけないだろ!
なんであんたが知ってるんだ!
こっち見んじゃね~よ
あっち行けよバカ! ”
ここで先輩は、慰めるようにやま子を後ろから抱きしめる
“ やま子 : くっさ~い
先輩 : お前だって臭せえんだよ、バカ ”
そして、言い争いをしていた二人は、しばし穏やかになる
「自我」と「反物質」が引っ付いたのである
そして、やま子は先輩に尋ねていく
“ やま子 : せんぱい
先輩 : なんだ
やま子 : 私の名前は何ですか?
先輩 : 「お前はヤマネコだ」 (先輩はやま子のことをこう呼んでいる)
やま子 : そんな名前の人間がいますか?
先輩 : いる、今ここに
やま子 : ここって何処ですか?
先輩 : 火蜥蜴島だ
やま子 : そんな名前の島、本当にあるんですか?
先輩 : ある、今、立っている
やま子 : どこからどこまでが、本当ですか?
先輩 : お前が、そうだ と思うとこまでだ
やま子 : 私は南愛治くんが、大、大、大好きです
先輩 : じゃあ、それは本当だ
やま子 : だから苦しくてたまりません
先輩 : それも本当だ
やま子 : こんな本当、要らないよ!
先輩 : 泣け! ヤマネコ!
やま子 : いやだ!
先輩 : 本当ってのはな! お前が感じるもの全てだ ”
ここで、花火が打ちあがり、やま子は祭り会場へと走り去っていく
祭りの中、松明に火をつけたやま子は、松明を振り回して先輩に叫び出す
“ やま子 : せんぱい
先輩 : なんだ
やま子 : 私はね、「私のでんぐり返し」するよ ←(魂の躍動。 筆者加筆)
先輩 : おーっ
やま子 : 今日からする
私にしか出来ない「でんぐり返し」
まだ、間に合うかな?
先輩 : あったり前だろー バカヤロー
やま子 : 先輩って、本当にくっさい
先輩 : おう、そうだ、おれはくっさいよ! 当ったり前だろう、生きてんだから!
やま子 : くさい、うざい、きもい、暑苦しい
先輩 : いいぞー、もっと叫べ!
やま子 : くさい、うざい、きもい、うざい、暑苦しい
先輩は、先輩の臭いがする
先輩といると、息がくるしくておかしくなる
何度もありえないんだよー、バカヤローー
でも、私、先輩のことが・・・・・ ”
この後、やま子は倒れてしまう
そして、目を開くとやま子はベッドの上で横になっている
先輩が運んでくれたのである
やま子は自らを振り返っている
“ 先輩は、今日だけじゃなくて、いつも私を運んでくれた
パパとママに、私の病気のことを聞いて、こう言った
「大丈夫です、俺があの子に 思い出 創らせますから」
なんだよ先輩、カッコつけんなよ ”
ここでやま子の容体がさらに危うくなる
“ やま子 : ごめん、今度はちょっとダメみたい・・ ”
と成ったところで、やま子は「張りぼての地球」から出ていて、空に浮いている
“ やま子 : うそ~、本当に死んじゃうの? 本当って、やっぱり残酷で嫌だ
だって私、まだ何もしてないよ
喜久子にあやまりたい
もう一度、愛治くんに会いたい
それから、先輩、どこにいるの?
せんぱ~い せんぱ~い せんぱ~い
なんで、こんな肝心なときに、、、
私、本当に死んじゃうかもしれないんだよ
痛い、苦しい、吐きそう~
助けて、せんぱ~い ”
と、成ったところで、やま子が目を覚ますと、そこは体育館である
“ やま子 : えっ、なんで、、、 夢か
先輩 : 何してた、ヤマネコ!
やま子 : せんぱい
先輩 : さっさと回れよ
やま子 : えっ?
先輩 : どうした、そんなしょぼくれた顔して!
やま子 : だって
先輩 : だって、なんだ ”
と成ったところで、今度は祭りの前に「たこ焼き」を焼いていた時のシーンになる
“ やま子 : 熱っ! あれ?
先輩 : 何してんだよ! ヤマネコ! さっさと焼けよ おら!
そっちもひっくり返せよおまえ
やま子 : でも、先輩、、、 お祭りはもう終わったはずでは、、、
先輩 : 終わってねーよ、バカ! しっかりしろよ、ヤマネコ! ”
もう、「やま子の時間軸」は、ぐちゃぐちゃになっていて、“一方行には流れてない” のである
そして、やま子は回想をしながら先輩としゃべり続けていく
“ やま子 : 場所だけが、どんどん変わった
まるでアルバムをめくるみたいに
先輩? これって・・?
先輩 : 「思い出」だ
やま子 : 思い出?
先輩 : そう、人間最後に残るのは「思い出」
「思い出」の多いやつの勝ちなんだよ
やま子 : 先輩、もう少し一緒にいたいよ
まだ死にたくない
先輩 : じゃあ見せてみろよ! おまえの「でんぐり返し」 ”
ここで、また二人は体育館に居る
“ やま子 : あれ~? ”
そして、やま子は、先輩に腕を掴まれ、振り回されることをきっかけにして
「でんぐり返し」どころか、見事な大回転をバンバン決めていく
やま子は自分でも驚いている
“ 先輩 : いいぞ、ヤマネコー
やま子 : 先輩、これは夢ですか?
先輩 : 違う 本当だ
やま子 : うっそだ~
先輩 : 言ったろー 本当ってのは、、、
やま子 : 私の感じるものすべて! ”
そう、“感じるものが、本当のやま子” なのである
もっと正確に言うならば
“今、体験している状態” が、“本当のやま子” なのである
そして、でんぐり返しどころか、大回転をしたやま子は見事に着地も決めてしまう
先輩、大拍手
“ やま子 : 、、、まだ終わってないよ・・・ 私のでんぐり返し
先輩、、、私とキスして下さい
先輩 : (先輩は困っている)、、、・・・ 断る
やま子 : なんでですか?
私、キスしないで死ぬのは嫌です
先輩 : ダメだ 絶対ダメだ
やま子 : なんで?
先輩 : 「こころ残り」が無くなってしまったら
お前、本当に死んでしまう
やま子 : せんぱい せんぱい ”
そう、「心残り」が無くなれば、「やま子」は存在出来ないのである
「自我のやま子」は「未練=記憶」だからである
と、同時に「先輩」も存在出来なくなるのである
その両方が「対消滅」してしまうからである
ここで、また、やま子は病院のベッドの上で横たわっている
そして、目を覚ます
“ やま子 : せ ん ぱ い
先輩 : 死ぬなヤマネコ ”
と言って、「先輩」は「やま子」にキスをする
そう、「先輩」は「自らの死」を選んだのである
と、同時に「やま子の自我」も「この世界」では存在出来なくなってしまう
そして、ラストシーン
二人は地球の外に出ていて、空に浮かんで手を取り合っている
そのバックに映っている地球は
もう「ハリボテの地球」ではなく “リアルな地球の姿” に成っている
そんな二人が手を取り合っている両腕の間には「やま子の宝箱(記憶)」がある
その「やま子の宝箱(記憶)」のふたが開くと
「今までのやま子の過去(記憶)」が解放されるのである
「やま子の過去」が解放されるというのは
「今までのやま子(自我)の終焉」を意味すると共に
その反物質だった「くさい、うざい、きもい、暑苦しい 先輩」も終焉するのである
(このときの二人の描写は、映画「千と千尋の神隠し」での「千尋とハクが手を取り合っているシーン」と酷似した描写になっている)
そして、最後に、やま子はみんなにお礼を言う
“ 先輩、ありがとう ありがとう ありがとう
私の名前は、西表耶麻子
高校1年の16歳
私は南愛治くんのことが大、大、大好きです
それが、全ての始まりで・・、全てのきっかけで・・・
私はパパとママが大好きです
喜久子のことが大好きです
そして、私が住んでいる、この火蜥蜴島も
それから、先輩のことが 大、大、大嫌いで、、
と、「違うこと」を言ったところで
「おい、ヤマネコ!」と反物質の「先輩」の声がする
そして、やま子は、そこに付け加える
大、大、大、大好きです ”
そして、そこには、晴れ晴れとした顔の “やま子がひとり” で立っている
そこに「先輩」の姿は、もう見当たらない
今や、その地球は「自我のやま子」と「先輩(自我のやま子の反物質)」の無い
“本当のやま子” が住む地球である
ここで、真っ暗になり、幕が閉じられて 「完」 となる
そして、新たに、エンディング曲が始まっていく
本当に考えて作られている作品である
さて、この映画が伝えようとしているように
あなたもこの地球に「思い出=記憶」を携えてやって来たのである
この「記憶」がなければ、あなたは「体験すること」が出来ないからだ
そして、その「思い出を体験しに(感情を味わいに)やって来た」のである
だが、あなたが “体験すること” は、その “「思い出=記憶」とは違うこと” に成るのである
「思い出=記憶」との “差異” が、“あなたの体験に成る” からだ
これは、あなたには「記憶との “差異” しか見つけられない」ということである
よって、あなたは携えてきた「思い出=記憶」との “「ズレ」だけを体験する” のである
そして、その “新たな体験” がまた「今生での思い出」と成っていく
つまり「この映画」が言っている通り
あなたは「新しい思い出を創るため」に「この世界」にやって来たのである
そして、今、この繰り返しを起こし続けている
この、輪廻
だが、いつかあなたは「このこと」に気が付くだろう
そして、その違和感と共に、“あなたの生” を発見していくのである
このとき、そこにある「思い出」は力を持たなくなる
そして、全てが「いい思い出」となる
さて、“生” とは、“ごく自然にここに在る” ものだ
だが、“そこ” にあなたは「思い出(記憶)」でストップをかけにいく
だが、これからは 「記憶」で止めずに、“生” に乗っていくべきなのだ
このとき、あなたは発見するだろう
“何のストレスもかかっていない穏やかな位置が在ること” を
そこが、“あなたの生” である
あなたが、“ここ” を掴んだとき
「あなたの輪廻」が終焉するのである
* この映画の中では「臭い、臭い」としきりに言っているが
人間において「臭い」というのは「肉体」に関連する部分である